鉄フライパンの油膜とは?

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こんにちは、めしラボ(@MeshiLab)です。

鉄フライパンを使い始めたばかりだと「食材がくっついてしまう」「すぐにサビてしまう」などの不満を持つ方も少なくありません。これには油膜の有無が関係しており、正しくシーズニング(油ならし)された鉄フライパンには起こりにくい問題です。

鉄フライパンを育てるためには油膜の性質を知る必要があります。

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今回の記事は次のような人におすすめ!

  • 買ったばかりの鉄フライパンが扱いにくい。
  • 鉄フライパンにシーズニング(油ならし)をする目的は?
  • 油膜に適した油の種類は?

鉄フライパンは油膜によりくっつきにくくなります。

新しい鉄フライパンを使いはじめるにはシーズニング(油ならし)をします。シーズニングとは鉄フライパンの表面に樹脂層(ポリマー層)を形成させて食材をくっつきにくくさせることであり、樹脂層は油を酸化重合させることにより形成されます。

油を塗ったフライパンを熱したり冷ましたりするのは油の酸化を促すためです。

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鉄フライパンの油膜とは?

油は酸化重合により樹脂層を形成します。

調理や健康面では敬遠されている油の酸化重合反応ですが、鉄フライパンやスキレットなどを使いやすくするためには積極的に利用されます。しかし油脂の酸化重合というのは油脂の劣化そのものですので油の種類や温度により性質の異なる重合物が形成されます。

脂肪酸は高温により自動酸化が加速します。

脂肪酸が加熱されると脂肪酸内の二重結合が移動して共益結合となり、その後にほかの脂肪酸とつながって橋渡し結合が発生します。この重合は通常の調理時にも発生していますが高温に熱すると加速度的に進むことになります。

高温に熱すると短時間での油膜の形成が可能になる一方、温度を上げすぎると「油が焼き切れてしまう」「油膜が剥がれやすく(割れやすく)なってしまう」などのリスクを伴う可能性があります。

このことからも、油膜は時間をかけて形成させることがポイントになります。

くっつかなくなる仕組みは?

油膜は食材がくっつくのを防ぎます。

フライパンに食材をのせると食材と金属面はぴったりと密着します。その状態で水分が蒸発するとたんぱく質や澱粉は金属に張り付いたままで熱凝固したり糊化(α化)したりすることになります。

これが焦げると食材がフライパンに張り付くことになります。

フライパンに油を引くと食材と金属面が油の薄い膜で隔たれるために油の上で熱凝固や澱粉の糊化が起こることになります。そのため鉄フライパンでの調理をする場合にはフッ素樹脂加工のフライパンよりも多くの油が使われます。

しかし、油を引くだけでは油切れを起こしてしまうことがあります。

そこで油を酸化重合させた樹脂層(ポリマー層)を形成させておきます。油膜があることによりたとえ調理油が油切れを起こしたとしても食材と金属面が直接触れて張り付いてしまうことを防げるようになります。

また、金属面の腐食を防ぐためにも役立ちます。

油膜におすすめの油は?

油膜は脂肪酸の酸化により形成されます。

食用油脂に含まれている脂肪酸はアルキル基にカルボキシル基が結合したものです。二重結合部は容易に酸素と結合して酸化反応が進みます。生成した過酸化脂質は分解されて低分子のカルボニル化合物となり、さらに酸化が進むと酸素原子を介して架橋が形成されて重合物となります。

鉄フライパンの油膜には脂肪酸の酸化重合が利用されています。(※ヨウ素価は二重結合の数を比較するための数値です)

乾性油
ヨウ素価130以上
アマニ油、胡桃油、ヒマワリ油など
半乾性油
ヨウ素価130から100程度
コーン油、胡麻油、大豆油など
不乾性油
ヨウ素価100以下
オリーブ油、椿油、菜種油など

脂肪酸の二重結合部は容易に酸化します。

そのため鉄フライパンの油膜形成には二重結合の多い乾性油(または半乾性油)が用いられます。たとえば酸化重合しやすいα-リノレン酸を多く含むアマニ油は塗料や油絵具としても利用されているほどですので強固な樹脂層(ポリマー層)を形成することができます。

以下は脂肪酸の相対酸化速度です。

二重結合の数相対酸化速度
ステアリン酸01
オレイン酸1100
リノール酸21200
リノレン酸32500

おすすめはひまわり油(ハイリノール)や大豆油です。

よりヨウ素価の高い油(リノレン酸含有率の高い油)の方が早くきれいな油膜を形成できますが、アマニ油などで形成した油膜は仕上がりこそきれいなもののポロポロと剥がれ落ちるように剥離してしまうことがあるために積極的にはおすすめしません。

個人的にはハイリノールタイプのひまわり油を好んで使っています。

できた油膜を維持するには?

鉄フライパンは極端なpHの偏りを嫌います。

多くの金属は酸に溶けます。鉄も例外ではなく酸性の強い食材を調理してしまうと金属表面が溶かされてしまうために油膜や酸化被膜まで取れてしまいます。くっつきやすくなりますし料理は鉄臭くなります。

アルカリ性にも注意が必要です。

鉄は両性金属(アルミニウム、亜鉛、錫、鉛の酸と塩基の両方に反応する金属)ではありませんのでアルカリ性には溶かされません。しかし、アルカリ性は油膜(脂が酸化重合することにより形成された樹脂層)を落としてしまいます。

油汚れがアルカリ性洗剤で落とせるのと同じ仕組みです。

酸性
レモンやトマトなど
金属表面を溶かす
アルカリ性
海藻類やホウレン草など
油膜が取れてしまう

注意して欲しいのは酸性食材です。

強いアルカリ性を示す食材は限られていますので気にする必要はありません。しかし、強い酸を示す料理には「トマト料理、フルーツやジャムを使った料理、ワインやコーラを使った煮込み料理など」がありますので知らずに調理してしまうと金属面を溶かします。

金属面が溶けると油膜や酸化被膜が剥がれてしまいますし、料理は鉄臭くなります。

まとめ・鉄フライパンの油膜とは?

鉄フライパンは油膜により食材が張り付くのを防いでいます。

油膜とは油が酸化重合することにより形成される樹脂層(ポリマー層)のことであり、強固な樹脂層の形成された鉄フライパンはフッ素樹脂加工のフライパンにも負けないほどに使いやすくなります。

しかし油膜を保持しながら使い続けるためには守らなければいけないポイントがありますので、汎用性の高いフライパンとは言えない部分があります。

※板厚はデバイヤーの場合は24cmまでが2.5mm、それ以上が3.0mmです。山田工業所の場合は1.6mm、2.3mm、3.2mmの3パターンがあります。厚板はじっくり焼きたい料理、薄板はサッと炒めたい料理に向いています。